LAX (3)

「まず、お掛け下さい。手始めにパスポートを確認させていただけますか。」

とモデストロ。

私は長椅子の真ん中に腰かけ、向かい側に腰かける二人の異邦人(ロスアンゼルスでは日本人の私が異邦人といえば異邦人だが、情報部員と言うのは普通の市民からすれば相当な異邦人でしょう、皆さん)と向かい合った。そして背広の内ポケットからパスポートを取りだそうとして、手を止めた

「まず、あなた方のIDを確かめしゃしぇ、さしぇ、させてもらえますか」

と今度は日本語で聞いた。(我ながら落ち着いているじゃないか。あははっ。さっきから口も咽喉もカラカラで、ひっつきそう・・「さ」「せ」の音がうまくでないョ)

モデストロはホラーをみて、

「He wanna confirm our credencials」

と言うと、ホラーは背広の内ポケットから手帳状のものを取り出しモデストロに渡す。ホラーがそれを左手、自らのものを右手で持ち腕を伸ばして、私の目の前に突き出すようにかざした。

確かにIDカードには中央情報局のエンブレムとIDの持ち主の写真が貼り付けてある。

はっきりと確かめようと、私が思わず手に取ろうとするとモデストロはすっーと両手を下ろし、左手をホラーに向けIDを返し、自らのIDも内ポケットの左に右手でしまい込んだ。その間、私の目から視線を逸らすことはなかった。

そして、

「パスポートを」

わたしはもう一度背広に手を突っ込んでパスポートを取りだした。

モデストロはそれを手に取り確認するために、ようやく視線を外した。

「Mototsugu Goto  July 27, 1972 It's him」

というとパスポートをホラーに渡した。

「後藤さん、Luggage claim に荷物がありますよね。こちらに持ってこらせましょう。Ticket と Tagを出していただけますか」

モデストロは受け取ったものを持つと立ち上がり、ドアのところへ行きノックした。

すぐにドアが開き、私を連行してきた二人が顔を出し、短い会話ののち、ドアを閉めると戻ってきた。その間ホラーは書類を手に何やら準備中だったが、書類から目を離すと言った。

「さあ、はじめましょうか」

驚いたことにホラーも日本語を話せるようだ。