椿説弓張月 小説鎮西八郎源為朝

珍説弓張月 鎮西八郎 白縫 女兵を操る

阿曽三郎忠国(あそのさぶろう ただくに)は、その日為朝を伴い帰り、厚くもてなし、自身の愛娘、白縫にもかくかくしかじかと、今日の出来事を申し聞かせて、ひたすら為朝の智勇を称賛したという。 しかれども白縫はまだ為朝の人となりを知らないのである。 …

珍説弓張月 鎮西八郎 鶴、籠を出でて恩に答える

あれだけの体格だ、さぞ、弓勢も強力なことであろうと、忠国が見ると、為朝の弓には鉄製の枴(「おうこ」杖状の板)が押し込められている。 忠国は、 「人には多かれ少なかれ驚きの一面があるとは知ってはいたが、このような強弓を引ける者がいるのであろう…

珍説弓張月 鎮西八郎 老猴、塔に登りて主を辱かしめる

八郎冠者為朝は、重季、山雄を喪いしより、気分も晴れず、行く末の処し方などを思う日が続いていた。 そんなある春の夜、為朝は寝覚めに夢を見た。 ひとりのおなごが、白綾の袿(うちぎ)に同じ色の袴を穿き、紅の一枝の花を頭髪にさして、枕元に立って 「近…

鎮西八郎 義家放生の鶴

須藤重季のその姿に、為朝、 「日頃の覚悟のほど確かに見届けた。雷に撃たれようとも、その珠を全うするとは、かの藺相如(りん しょうじょ)の忠にも優るものであった。須藤の志は無駄にせぬぞ。」 と、その珠を手に取りて見てみると、その輝きは明月のごと…

山雄 首を失いて主を救う/為朝 大蛇から珠を得る

八郎為朝は、八町礫の紀平治と出会ってからは、この者を愛で、普段からその家を訪ねては、共に狩りをするようになった。 狩りに行くときには、狼の二頭のうちの一頭を連れて、まるで猟犬のように、猪や鹿を追い出させていたのだが、狼は狼で主の手を煩わせる…

八町礫の紀平治 為朝を歓待する

為朝、これを聞いて、 「さてはこの狼どもが怖れしは、紀平治がそばに来たと知ってのこと、紀平治の礫の術が尋常のものではないと感じたからであろう」と心で思って、紀平治に礼儀正しく、道に迷いしこと、狼との出会いのことなどを物語ったところ、 紀平治…

鎮西八郎為朝 八町礫の紀平治との出会い

「さては、この為朝が一言に感服し、和睦をしたものとみえる。世間では奸智術策の巧みな人を虎狼に例えるが、今、このありさまを見ればこの狼の子たちにも義や信と言うものがあるに違いない。争い殺し合いをしてまでのことでは無かったであろう。わかってく…

為朝 狼の争いを見て自戒する

為義は屋敷に戻ると、息子である為朝を傍に招き入れて 「御身はどうしたことであろう、年長者をも敬わず、しばしば口の災いを招いてしまう。わかっておるのか。年長者を敬うというのは身を立てる事にも通じるというのに、その場の争いにその身を任せて、式成…

椿説弓張月 為朝弓勢問答

当時の瀧口武者(たきぐちのむしゃ)というのは天子の居室がある清涼殿の警護を務める武官であり、京では兵仗(武器)特に弓箭(弓矢)を帯びることは正規の武官以外には許されていおらず、ただ瀧口武者のみが弓箭を帯びて宮中に出入りすることが許されてい…

鎮西八郎源為朝の登場

後に鎮西八郎(ちんぜいはちろう)として知られる我らが英雄、源八郎為朝(みなもとのはちろうためとも)は、清和天皇より七世の皇孫、八幡太郎義家(はちまんたろうよしいえ)が嫡孫、六条判官為義(ろくじょうはんがんためよし)が八男として生まれいず。 …