怪談

《怪談》

あの日、私はその見ず知らずの男に、いきなり「死後の世界」を問いかけられた。

世の中にはそんな不思議なこともあるとは聞いてたが、自分の身に起きると、思わず息を飲み、心臓が止まるのではないかと思うぐらい、びっくりした。

話はこうだ。
その男は横の細い路地からすーっと流れるように、それこそ滑るように現れた。あまりに近くから、ぶつかるのではないかと思われる距離から出てきたので、身を引いて飛びのこうかと思うくらいだった。

白いワイシャツを着た青白い顔をした痩せた青年だ、20代前半だろう。彼が私に気付かなかったことは間違いない。

彼は、何事もなかったように、そのまま前を向いて歩きだすかと思った、その次の瞬間だ。「死後の世界」を叫ぶように彼は言った。

「あのよ」

彼は、その「死後の世界」を表す単語を全く見ず知らずのはずの、私に問いかけたのだ。

そう、私の後ろにはその青年の連れがいた。
連れと間違えて私に声をかけたのだ。心臓が止まるかと思った。