FBIとNSA (15)
「後藤さん、まずはこれをお返しします」
ダールと紹介された男が私のパスポートと携帯をテーブルに置いた。
「パソコンはどうした。奴らはパソコンも持って行ったぞ」
「貴方の手荷物の中に戻っています。
我々FBIは貴方のプライバシーとあなたの会社の機密を尊重するよう指示を受けております。
ご安心ください」
「いや、いや、安心できない。この部屋にすぐ持ってきてくれないか」
と私は興奮して答えた。
「直ちにお持ちします」
とキャステラが語尾に「サー」をつけて答えると立ち上がった。
「CIAは貴方に失礼なことをしましたか」
とダール。
「失礼と言うか、協力してくれと言う割には、脅し文句こそなかったが、ずいぶん強圧的だったよ。
君たちに怒りを向けるべきなのかどうか・・・解らないが・・・今になって思い出すと腹が立つよ。
携帯の通話履歴とか、パソコンの中身を勝手に見られてしまったようだし・・・。
君たちも私の持っていた情報を既に手に入れているんだろう」
「ご安心ください。
彼らにその時間はなかったはずです。それに私どもは令状なしにそれが個人であれ、会社であれプライバシーを勝手にのぞき見ることはしません」
「本当だか、どうだか・・・。
令状と言えば、モデストロかホラーかどちらかが、私がアメリカ市民ではないから令状なしでパソコンの中身を調べられるとか言って、パソコンを取り上げたんだから、携帯も・・・」
「それは、でたらめです」
「令状はいるんだろう」
「その通りです。アメリカ国土にいる全ての人間に対し、平等に法は施行されます。
もしそんなやり取りがあったのなら、アメリカ市民として大変恥ずかしいことです。あやまります。FBIから正式に抗議を入れましょう」
「ぜひ、そうしてほしいね。ところで、本当に私のプライバシーと会社の機密は守られたんでしょうね」
「FBIが保証します」
私は、ふうーっと溜息をついて、一旦黙り込んだ。
「大野さんの件ですが、コンベンションセンターでの出来事は総領事館の佐藤氏が伝えた通りです。事件はロスアンゼルス市警からFBIに管轄が移りましたので、私のところに報告が入ります。詳細が分かりましたらハーブからお伝えします。
また、後藤さんには、大野さんにこのあとご対面いただく予定です。もちろん、こちらにいるあなた方の会社の関係者にも。
のちほど、ハーブが貴方をご案内しますし、その時までにはもう少し詳しい話ができるかもしれません」
とダールは続けた。
「そうだ・・・大野君といえば、家族には連絡が行っているんだろうか」
「ロスアンゼルス市警から日本総領事館経由で連絡が届いていると思います。
また、日本の首相官邸にも連絡していますから、問題はないと思います」
「首相官邸だって」
「内閣官房に連絡が行っています。日本政府の協力が必要になるので、一般の事件の扱いではありません。防衛省にも伝わっているはずです」
「イエスサー」
と返事をした。
「ちょといいかな」
私は携帯を指差して言った。
「どうぞ。ただ日本は午前7時ぐらいですから、会社にかけるにはちょっと早いかもしれませんよ」
とダール。
私は携帯を手に取り、飛行機から降りてまだオンにしていなかった電源を入れた。
「それでは、ちょっと失礼・・・」
ようやく動き始めた携帯のアドレス帳からその名前を選び出し、ボタンを押した。