FBIとNSA (14)
私は手荷物も携帯も奪われ、ソファーとテーブルだけの部屋に残され、じっと座っていることもできず立ち上がっては部屋を歩き回っていた。
幸い、腕時計は付けたままだ。だからどうだと言うのだ。時間だけを、腕時計の針だけを、時々見ることが今の私にできることだった。
部屋の隅にある固定電話はウンともスンとも言わない。それは37分30秒ほど前に確かめた。もう、50分は経っている。あいつらが立ち去って、時計を見てから48分23秒だ。動きつかれた。座ろう。ジタバタしてどうする。体力を温存しよう。
私は先にホラーが座っていた席に腰を下ろした。
腰を下ろすと同時に、ガチャ、と音がした。私は自分のお尻の下を見た。何も落ちていない。
それはドアが開いた音だった。私が椅子に腰かけたときに出た音では・・・なかった。
顔を上げた私の目の前に4人の男が現れた。
「後藤さんですね。後藤基次さん。私はロスアンゼルス日本総領事館の佐藤と言います。領事官補というのをやってます」
日本人が声をかけた。若造だ。
「こちらは連邦捜査局、FBIのミスタージェリー・ダールとミスターハーブ・キャスチラ。こちらが国家安全保障局のミスターハリー・ブライトマン。
あなたを保護しにまいりました」
私は茫然と座ったまま、4人の手を握った。声は何故か出なかった。
日本人が私の横に座り、FBIの2人がソファに、あと一人が斜め横の椅子に座った。
「本来なら領事か書記官が事情を説明しなければならないのですが、お許しください」
と、佐藤領事官補は話をはじめた。
豊臣精密工業が開発したゲームであるフライングフォートレスが開発者の意図に反し、軍事用に転用可能であり、しかも国家間の軍事バランスを変えてしまうほどのインパクトを持つらしいということ。
昨日の夕方にロスアンゼルスコンベンションセンターで行われたデモンストレーションで所属不明のグループが大野のほかに警備員を殺害し、大野が持っていたディスクのほか、展示物の一部を持ち去ったということ。
日本政府とアメリカ政府とで緊急に会議が行われ日米両国にあるフライングフォートレスの保護と開発にあたったキーパーソンの保護が決まったこと。
後藤の身はしばらくFBIが保護すること。
佐藤自身は一切詳細を知らずにメッセンジャーとしてロスアンゼルス総領事から派遣されていて、質問にはほとんど答えられないこと。
アメリカの国防総省と日本の防衛省の連絡官としてNSA(国家安全保障局)が後藤に連絡をとること。
以上を伝えると、
「おそくなりましたが、私の身分証明書です」
といって、外交官の身分を証明するIDを見せた。
「日本政府として後藤さんにこの3人と協力してもらうことをお伝えするのが、私の役割です。
後藤さんの身はアメリカ政府に暫く預かっていただくことになりますが、ゲストとして最大限の待遇をしていただけるよう日本政府から要求してあります」
と言うと立ち上がった。
「さっきのCIAは、いったい何だったんだ。それに豊臣社長は・・・」
と私。
「CIA・・。豊臣社長・・。何も知りません。何かあったの・・・」佐藤。
「後は私たちの方から説明します」
とブライトマンが英語で佐藤の言葉の語尾にかぶせるように答えた。
「後藤さん。私は何が起きているか詳細はまるで何も知らないのです。色々大変でしょうが、暫くのご辛抱と思います。ご縁がありましたら、またお会いしましょう」
と佐藤領事官補は言い捨てて、ドアをガチャガチャ鳴らし、部屋を外から開けてもらい、あわてたように出て行った。