フライングフォートレス (12)
フライングフォートレスのお披露目が始まって40分たった。
そして、ようやくこの製品が、ただ飛ばして遊ぶというラジコンヘリコプター模型ではなく、極小ハードの技術を売り物にする「世界の豊臣精密工業株式会社がゲームを作ったらこうなるんだ」と主張し始めたのだ。
ゲームそのもののプレゼンテーションである。
フライングディスクは大野の頭上で停止している。
後藤は再び大型モニターに見学者の注意を促した。
「さきほど、ディスクが飛行中に撮った絵を見てみましょう。
モニターの三段に分かれた画面をご覧ください」
みんなが大型モニターを見たのを確認し、
「それではスタートします」
画面ではディスクが研究棟の奥隅の高いところへ上がっていくにつれ、上部の画面では研究棟の鉄筋むき出しの緑色の天井がだんだん近づいてくる。真ん中の画面では研究棟の左右の緑の壁が接近し、下部の画面では灰色のコンクリートも床がだんだん離れていく。
一旦画面が静止し真ん中の画面がゆっくり右に振られる。右側の壁が右方向に少しづつ遠くの方まで見えていき、もはや左側の壁と表現しなければならなくなり、やがて向かい側の壁との境目が見え、向かいの壁が広がり、その全貌が見えた。そこで景色は再び停止した。
次の瞬間、上中下全ての画面がかなりの速さでサーっと流れた。背筋がこそばゆくなる感覚だ。
真ん中と下の画面が映し出しているのがコンクリートの床であると解った瞬間に、シュボッと音がして、全ての画面が回転し始めた。ときどき「ウオー」という声が聞こえる。
画面は肉眼ではとてもついていけない。灰色と緑のリボンがぐるぐる回っているようにしか見えない。
「みなさん、何が見えているかわからないと思います。お待ちください・・・
ちょっと戻って・・・これが宙返りの瞬間のスローモーションです。・・・そしてこれが螺旋運動しながら上昇する様子です。で、これが・・・」
「もうこの画面は充分だ。これ以上見たら、酔ってしまう」
と誰かの声がした。
「これらの画面を録画した理由は、このゲームではこの録画した画像を用いてゲームの背景画を作ることができるという説明のためです。
・・・・・少々お待ちを・・・・・
撮影で読み取ったこの研究棟にある机、椅子、試験装置、窓、ロッカー、クレーンやご主席者の画像を色々加工してゲームの背景にできるのです。
・・・・・
例えば、・・・砂漠モード」
「オー」
大型モニターの画面に大きな砂丘がいくつも波を打って連なっていて、遠くにピラミッドらしい遺物がある大砂漠が映し出された。
「これは火山島モード」
今度は真っ赤な溶岩を真っ黒な煙とともに噴き出す火山が、おどろ恐ろしく映し出される。
「オー」
「これは火星モード」
「海上都市モード、宇宙空間モードもあります。
もちろん、ユーザーがカスタマイズすることも可能です。あとは製品の一般発表会までに、いくつか他の案を試して最終的に標準モードを決めていくつもりです。
・・・・・
本日のデモンストレーションは宇宙空間モードで行ってみます」
モニター画面は大きな土星のような惑星が遠くに浮かび、大小様々な小惑星が近くにあると言う宇宙空間に切り替わった。
「おそらく、この土星はあちらの天井近くにあるクレーン、小惑星はご見学者の皆さんを画像処理したものです。
ディスクは撮影した物の位置を座標軸化してそれをフライングフォートレスのゲーム本体であるコンピューターに送信します。
コンピューター上で・・・、つまりゲーム本体上でディスクから送られて来たデータを加工するのです。
つまり、画面に映っているものをそれぞれのモードに合わせ偽物化し、座標軸をテーマにそって秩序良く歪ませたり、ランダムに歪ませたりすることによりゲームの背景を作り出すのです。
この場合、天井、天井クレーン、試験装置、見学者である人とその間にある空間を加工して、このような宇宙空間に偽物化したわけです。
あとは、この画面にゲーマーが立ち向かう試練と敵が現れる仕掛けです」