フライングフォートレス (11)
ディスクはゆっくりと上昇した。それにつれて大型モニターの画像もテーブルから周りの景色、研究棟の下部全体へとゆっくり変化していく。
「ディスクは中央部にある二つのプロペラ推進用のモーターで上昇下降、右左への移動等ができます。つまり、ヘリコプターが可能な運動は全てできるようになっております・・・」
話に合わせて、ディスクは上昇、下降、右方向への移動、そして左方向、斜め右上方から左下方へと山形の運動を披露する。
まさしくヘリコプターである。
今や、見物人はモニターを見ているものは誰もいない。
空飛ぶ円盤がヘリコプターのラジコンよろしく飛ぶ様を見ているだけである。
ディスクは見物人の真上2メートルで停止した。そして、デモンストレーターの大野の真上に移動する。
みんな空中を見ている。
「ここで、モニターにご注目願います。」
と後藤。
「モニター画面が上中下3つに分かれました。
モニターの真ん中がディスクの進行方向つまり前方。画面の上がディスクの上方、下が真下のカメラ映像となります
ディスクにはこのようにカメラが3つついており上下のカメラ映像は広角映像と魚眼のような360度画面の切り替えが可能になっています・・・」
カメラの切り替えや広角や魚眼画像の詳細な技術的説明を、モニターの中で、あるいは空中のディスクを上下左右前後に移動させながら、しばらく続けていく、
「・・・というわけで、コントローラーのモニターでも画面は小さくなりますが、同じものが写っており、操縦者はコントロール上の必要に応じて必要な画面を呼び出して用いることができます。
また、撮影した画面はディスクからコンピュータに無線で転送可能です。
いまから、撮影する画面をパソコンで後ほど再生して御覧に入れようと思います。
それでは、あらためてフライングフォートレスのディスクの飛行性能をご覧ください」
と再び見物人の意識をディスクに戻した。
ディスクはゆっくりと30メートルある研究棟の高みに登っていくと、するすると研究棟の左奥隅へ移動する。そして、いったん止まったかと見えたその瞬間、斜め下右方向、研究棟のもう一方の対角線に沿ってかなりのスピードでどんどん下降を始めた。
ディスクはスピードをどんどん上げ一直線に下りてくる。それはプロペラ推進とは思えないほどである。
いっきに30メートルの高みから人間の背の高さほどまで猛スピードで加速したディスクが、そのまま勢いを止めずに下降を続けた。そして見物人の誰もがコンクリート製の床に衝突すると肝を冷やした瞬間。
事実、見物人の2,3人ほどは「ぶつかる」「ぶつかった」と声を出してつぶやいたが、その声の持ち主の意に反し、ディスクは「ブシュッツ」と音を立てて、跳ねるように反転したかと思うと、再び元来た方向へ勢いよく飛び去って行った。
「ウォー」
と声が上がる。
ディスクは螺旋運動、きりもみ、宙返りを繰り返し、その後3分もの間観客の歓声に答えて飛行を続けたのだった。