FBIとNSA (17)

「後藤さん、中身を確かめますか」

キャステラ

「そうさせてもらいましょう」

と私は言い、部屋の入り口近くに立っているキャステラから手荷物を受け取るとパソコンを取りだし、あらためて部屋の奥隅の椅子に座り、それを起動させた。

社内ネットワークへのログイン履歴の有無だけを確かめるのが精いっぱいだが、やらないよりましだろう。

 

1分後、私はもとの席に座りなおした。 

「後藤さんは疑問だらけでしょう。

私たちがこの部屋に来るまでのいきさつを聞いていただく事から始めましょう」

とダールが始めた。

「事は、3か月ほど前にNSAの管轄下で、ある組織が日本領海内の東シナ海の無線を捕えたことから始まります。

ブライトマン中佐、話を引き取ってもらえるかな」

「はい、副長官」

「副長官だって・・・FBIの・・・副長官」

「官職はまだ名乗っていなかったね。長官がフーバービルからいなくなると目立つのでね。副長官の私が後藤さんに会うようにアービング首席補佐官から長官に連絡があったんだ。

そのいきさつは後でこの話の中に出てくる予定だ。

今は、一緒にブライトマン中佐の話を聞こうじゃないか。

私も詳細に興味があるのでね。楽しみにしていたんだ」

 

ブライトマンの説明は後藤にとっては驚くべきものだった。

 

2ヶ月半ほど前

81日水曜日 午前9時ごろから10時ごろにかけて、日本の海上自衛隊5航空群所属のP-3C、および第6護衛隊所属の護衛艦2隻が沖縄県宮古島の北西約100キロの海域を東シナ海から太平洋に向けて南東進する中国海軍のフリゲート艦2隻、情報収集艦1隻を確認した。

既に情報を独自に得ていたアメリカの国家安全保障局(NSA)は、日本と台湾近海における中国海軍の動向把握のため、いつものルーチンに則り、通信傍受をCSS(国家中央保安部)とともに行っていた。

中国海軍同士の通信内容はもちろん日米の通信も一緒に傍受されることになる。

 

午前10時15分ごろ中国艦隊の先頭艦であるジャンカイII級フリゲート艦は無人飛行機を甲板上から飛び立たせた。

この種の飛行訓練は過去にも行われていたが、予定される訓練海域についてから行うのが通常だったため、予想外にも日本と台湾の間の宮古島付近で行おうとしたことに、中国海軍の意図を測りかねた日米は緊張した。

 

午前10時30分ごろ日本の宮古島方面から無線電波領域を用いた微弱な電波が発せられたのをNSAが感知。

同40分ごろ「中国製無人飛行機が急上昇し制御不能」との海上自衛隊の無線を傍受。

同43分「海上に落下」と報告の中国海軍と海上自衛隊双方の無線を傍受した。

 

中国海軍は情報収集艦が最後方にいて当該無人飛行機の入水位置に近かったため、回収を情報収集艦に依頼。

当初、情報収集艦は停止に時間がかかったものの、比較的容易に墜落位置を目視で確認できたため舷側よりボートを出して、飛行機の回収にあたった。

午後2時30分ごろ情報収集艦の派遣したボートの指揮官より

「回収は成功した」

との連絡が入ったのを確認した。

 

この騒ぎで、中国海軍はフリゲート艦2隻と情報艦1隻の航行間隔が相当開いてしまった。それは当然予想できたのだが、おかしなことに、その飛行機の異常作動直前から中国海軍の中でお互いの位置関係がうまく把握できなかった節があるのだ。

 

無人飛行機の異常上昇飛行が始まって、1分後に

「レーダーに異常」

それから

「島影及び味方艦の位置把握できず」

敵情報収集飛行機影7か所」等々の意味不明、不可思議な通信が傍受された。

それが2時頃まで続いたのだ。

 

また、日本のP-3Cと護衛艦についは10時40分から11時30分、午後12時30分から2時1分まで電子機器によるお互いの位置情報が把握できなくなる状態が発生した。

 

日本国海上自衛隊は当時目視情報で充分艦隊行動を把握できる環境にあり、P-3Cについても中国艦隊を目視しており飛行には問題は生じなかった。

ただ、中国側の無人飛行機について、

「レーダー機影を確認した。ステレス性能は認められず」

と報告した数分後に

「機影が断続的に複数個現れては消える」

現象を報告している。

 

また、同じ日、日本海経由で東シナ海を通過しようとしていたロシアの偵察機TU-95型2機が、緊急発進した自衛隊機F-15の2機とあわや空中衝突というニアミスを起こしたのだ。

 

 

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