フライングフォートレス (10)
フライングフォートレス試作品のお披露目は豊臣精密の研究棟の一つで行われた。
社長の豊臣英次も、新規事業本部長の前田俊樹が付き添って出席していた。あとは製造部門、製造技術部門を中心に直接製品開発に携わった部門の部長連中が5人ほどである。そこに、新製品開発部長の真田幸男と新製品開発部技術課から後藤と大野が加わって、都合、10人である。
後藤が説明者、大野がデモンストレーターだった。
一通りの挨拶が終わると、大型モニターに
「フライングフォートレス」
の文字が映し出された。パワーポイントの説明画面である。
「まず、製品構成を説明します」と後藤は切りだした。「フライングフォートレスはディスクと呼ばれる飛行物体・・・」
大野がテーブルに置いてある直径20センチ、厚さ2,3センチほどの円盤を取りあげ、斜めに傾けて、左から右へと体を回しながら、出席者に見せると、それを新製品開発部長の真田に手渡した。
真田は豊臣と前田に大野から手渡されたディスクの実物を見せている。
「・・・とそれを操縦するコントローラー、コンピューター本体の3点で構成されています。
ディスクはコントローラーで操縦します。コントローラーだけでコンピューターなしでできる機能としては、上下左右方向への飛行と周辺の撮影、撮影した画面の閲覧、位置情報の記憶等です。
また、・・・・・・
このことについてはデモを見ていただければ一目瞭然です。
のちほど、デモンストレーション終了時に飛行性能と撮影能力の数値情報についてはご説明いたしたいと思います。
コントローラーはご覧の通りラジコンの物とあまり違いはありません。5インチほどのモニターが付いていますので、ディスクが視界から外に出るような場合でも操縦が可能です。
・・・・・・・・
また、あらかじめ撮影した画面を用いて、ディスク本体の位置情報をコントローラー上のモニターに映し出すことも可能です。
このコントローラーの開発にあたっては木下電機・・・・・・
電波信号の暗号化も必要と考え・・・・・・・・・・・・」
と、後藤がパワーポイントでサンプル画面と要点をレーザーポイントで差しながら説明をしているうちにディスクは出席者を一回りして大野のところに帰って来た。
「さて、コンピューターの説明をする前に、一度ディスクの飛行と撮影機能をお見せします。」
大野がディスクを元のテーブルに置き、コントローラーを取り上げ、コントローラーとモニターを繋ぐケーブルをちょと持ち上げた。
「ディスクが撮影した画面はコントローラーに転送されますが、その画面を本日はこの大型モニターに映し出して皆さんにご覧いただきます」
一瞬の静寂ののち、ディスクは研究棟の中で飛び立った。