空飛ぶ要塞 by kaiunmanzoku

海外で情報戦争に巻き込まれてしまいました。私は無事に帰ってこれるでしょうか? 日米中ロの諜報機関と捜査機関が私を取り囲む??

フライングフォートレス (9)

六か月ほど前の5月下旬、大野治長は豊臣精密工業の新規事業本部に配属された。

後藤と言う課長の下で働くことになったのだ。

誰にとっても新しい職場と言うのはストレスが溜まる場所だが、初めて現実社会に出た新人にとってはさぞかし大変なことに違いない。

だが、この新人は一週間もたたないうちに職場の習慣と人間関係をモノにした。三週間後には課長の後藤と一緒に、製造技術部門の専門を鼻にかけるエキスパートや製造部門の年季の入った熟練工のおやじとの打ち合わせに参加して、冗談を飛ばしながら自分の意見を言うようになった。

 

まだ、勘違いや経験不足はあるが、何でも聞いて何でも質問する姿は、自分が忙しい時には生意気にも感じられるが、会社の皆から好感を持って迎えられるようになっていたのだ。

後藤は、決して物覚えが悪い方でもないが、会社の

「一癖もふた癖もある古だぬきを相手に、俺がいっぱしの意見が言えるようになったのは、つい昨日か一昨日のこと・・・」

だと思っている。

「・・・だから、大野君は世間摺れしているというか、怖いものなしだね。感心しているんだ。どんな学生時代だったの。教えてよ」

と、会議の帰りに、ざっくばらんに投げかけた質問に対して、大野が

「アルバイトと勉強三昧でした。アルバイトは何でもやりましたよ。引越しやコンビニといったありふれた仕事だけじゃなくて、取り立て屋の手伝いとか、ホスト、葬儀屋、大工。

今やっている仕事に近いところでは、町工場の手伝いやりながら設計図書いたり、それを持って他の町工場に『こういうの作ってよ』とか言って、外注品を調達してきたりしてました」

と説明した時には、すぐさま納得した。

「ホストも・・驚きだね。それはあまり会社では言わない方がいいと思うよ。

俺と違ってすごいと思うのは、俺が若い時、自分の親父と同じ世代は近づきがたかったし、その下の世代はなんだか理由なしに怖かったよ」

「そうすると僕から見たら、いまの課長ぐらいになりますか。ぼくも課長は怖いです」

とちっとも怖くなさそうに、綺麗な歯を見せて言う。

「怖がっているようには見えないな」

「尊敬しているんです」

「お世辞までうまいな、大野君は。ハハッ」

といった具合である。

 

7月には、その明るくて、全く人を恐れない性格で、大野は会社の誰からでも本音を聞き出せるようになっていた。もちろん、業務範囲が限られているので、直接の関連部署に限ってということだが。

この天性の能力で、いまや大野は技術課長後藤の秘書兼懐刀的存在だった。

他の技術課員も、工場で絶大の権力をふるう熟練工の親玉クラスである作業長に頼みごとをするようなときには、大野のアドバイスを聞くほどである。

他の課員と違って、大学出のエリート臭が無いところが良いのかもしれない。

 

フライングフォートレスの試作品が完成したのは、8月である。