LAX (5)

「貴方の安全を守るためにそれを知りたいのです

後藤さん、フライングフォートレスのディスクを今お持ちなんでしょうか」

モデストロがそう言いながら立ち上がり、ノックのあったドアの方に向かった。

「私の身が危ないって・・しょういうのか、君いっ」

「貴方の身うぉ守るためです。

後藤さん、簡単な質問です。

答えていただけませんか」

「いったいなぜ・・しょうなるのでしゅか

こちらのしゅつ問にも答えて下しゃい」

我々の間に沈黙が訪れた。

(この沈黙の間に説明をして置くが、私は普段からこういう「さしすせそ」が解らないしゃべり方をしている訳ではない。緊張で喉と口が乾燥して「S」の音が出なくなっているだけである。説明が遅くなったが、私と私の会社の名誉のためにも、くれぐれも誤解のないようにお願いしたい)

「実は、ロンドンであなたの会社の社長が行方不明になっています」

とモデストロが私のスーツケースを転がしながら戻ってきた。後ろから飲み物がカートでついて来た。先ほどの二人組東洋系の一人、若者のほうが部屋に運び込んできた。テーブルにポットとミネラルウォーター6本とグラスを3つ、紙コップのカートンを置いて立ち去った。

「豊臣社長が・・いったい何が起きているんだ」

これは私の言葉ではない。ホラーが日本語でつぶやいたのだ。

「先ほどラングレーから、マイクに連絡があり、後藤さんにも伝えて協力を求めよとのことです」

モデストロが英語でゆっくりと「beg Mr. Goto's favor」と文末の「Sir」を強調してホラーに報告をした。

私は声も出ず。目をホラーの頭の上30センチの中空に彷徨わせた。今度は身近な人の急死に対する驚きや不審といった感情ではなく、突然、虚無に心が奪われたのだ。

あまり長い時間ではなかったが・・・・・。

「私たちCIAは、ある情報うぉ持っていました。

あなた方が開発した製品がある領域の人達に非常に魅力的であるという情報うぉ。

その人達が貴方の会社の製品うぉ狙うのでは無いかという情報うぉ

そして、貴方の会社の大野さんがコンヴェンシャンセンタで死体で発見され、持ち物であるディスクうぉ盗まれました。

そして、今また、豊臣さんが行方不明だとわかりました。

犯人グループが欲しがっているものはわかっています。

しかし、犯人グループが何者かわかりません。

後藤さんの協力が必要なんです」

アルマーニのスーツがこんな時に気になるとは、心理状態と言うのは解らないものだ。二人から見て、私はじっと考え込んでいるように見えたことだろう。

しかし、この時の私は何も考えていない。二人の高そうなスーツを見ていただけである。「高そうだなあ」とも思っていないのである。ただただ、意識を集中することができなかったのである。

「まず、飲み物を。どれを飲みますか」

モデストロがミネラルウォーターを指差した。2種類ある。

私が炭酸入りの物を指差すとモデストロが栓抜きで開けグラスの注いで私に差し出した。

 

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